ALTA単独療法を施行後10年経過した264例の検討(第12回内痔核治療法研究会)
7月15日に東京で第12回内痔核治療法研究会で発表してきました。今回の研究会のテーマは、1)ALTA単独療法の長期成績ー10年経過例または5年経過例ー。2)パネルディスカッション:ALTA併用療法の種類と考え方。の二つでした。私の発表はこのテーマの1)の方でした。
演題名は「ALTA単独療法を施行後10年経過した264例の検討」です。
ALTA単独療法の一番の売りは、肛門に傷をつけることなく内痔核を治療できることです。ただ再発の率は痔核根治術と違って高い傾向にあります。この再発率を低くしていくためには、ALTA単独療法の適応をもっと厳格にしなければならないと思います。そのヒントを得ることができればと思っていました。
そのヒントは次のような点です。
1)内痔核の性状がどのようなものか。
内痔核は、なかなか内痔核単独ではありません。肛門管内外痔核や肛門管外外痔核の合併が少なからずあります。この外痔核成分の程度が再発にかかわってくると思います。したがって、診察時に内痔核が脱出してくる際に、内痔核の大きさと内外外痔核の大きさの程度を比較して、内外外痔核成分が多い場合には、痔核根治術を、内痔核が多い場合はALTA単独療法を選択する。このことを今後検討していくことが必要と思います。
2)初診時の症状でALTA単独療法の適応の有無を判断できないか。
1)のことを具体的に症状で考えてみると、内痔核成分の多い内痔核は脱出とともに出血の症状が多いのではないかと推測します。内外外痔核成分が多い場合は、脱出の症状はあっても、出血の症状が少ないのではないかと思います。この症状によって治療方法の適応を判断できないかも検討するべき項目だと思います。
3)内痔核の再発には排便習慣も関連していると思います。
①排便する際に怒責している時間、力んでいる時間がどうか?やはり力んでいる時間が長いと内痔核の再発の原因になります。
②すっきり便が出ているのにも関わらず、残便感があるか?残便感があって、出し切ろうとして頑張っている時間が長くなってしまうことが内痔核の発生に影響すると思います。
③1日の排便回数はどうか、1回の排便ですっきり出ているか?少量づつ何回も行くのか?
などが再発や内痔核そもそもの原因となると考えます。
以上のような点を診察時や問診で聞いていくことで、治療法の選択や再発の予防になるのではないかと考えます。
前置きが長くなりました。今回は発表の抄録を紹介して、発表内容は次回にしたいと思います。
抄録
「ALTA単独療法を施行後10年経過した264例の検討」
内痔核に対して、ALTA単独療法を施行し、10年以上経過した症例について、その長期成績を検討。【対象】H18年6月~平成20年3月までにALTA単独療法を施行した264例。【検討項目】検討項目は、①性差。②再発し、再度ALTA単独療法又は外科的治療を施行するまでの期間。③複数回再発した際の再発期間、その際の治療方法に関して検討。【結果】264例中、男性198例(平均年齢55.7歳)女性65例(平均年齢55.3歳)。初回再発時ALTA単独療法を施行した症例は、男性38例、女性4例、外科的治療を施行した症例は男性13例、女性5例であった。再発率は男性25.8%、女性13.8%。全体では22.7%であった。初回再発までの平均期間は2028.6日(5.6年)2回目再発までは684.7日(1.9年)。3回目再発までは660日(1.8年)であった。初回再発時にALTA単独療法施行までは2223.3日(6.1年)、外科的治療施行までの期間は1578.6日(4.3年)であった。再発までの期間では、5年未満が27例(45%)、5年以上が33例(55%)であった。【考察】ALTA単独療法後の再発は女性13.8%で、男性と比較して女性で再発率が低い傾向があった。これは、ALTA単独療法を施行した症例が女性では25%と男性と比較して少ないことも影響していると考える。再発までの平均期間は5.6年であるが、1年未満から10年以上それぞれの期間で再発症例の数には明らかな差は認めなかった。また、複数回再発症例の初回再発までの期間は1562.7日(4.3年)と短い傾向にあった。またその際、2回目再発までは1.9年、3回目再発までは1.8年であり、ALTA単独療法適応の判断が重要と考えられる。再発時の再治療は、ALTA単独療法42例、最終的に外科的治療を施行した症例は25例。その内訳はLE17例、輪ゴム結紮法6例、外痔核切除2例であった。ALTA単独療法の一番の利点は傷ができないことである。その利点を最大限に生かす必要があると考える。今後もALTA単独療法の方針を続けるとともに、ALTA単独療法の適応をさらに明確に追求していくことが必要と考える。
「7月の献立」を紹介します。
今回は、7月の献立を紹介します。7月に紹介したレシピを組み合わせての献立です。
献立のメニューは、①煮豚、②茄子の冷製、③たたききゅうり、④中華おこわ、⑤わかめスープの五品の献立です。
先日、東京で開催された第12回内痔核治療法研究会総会で発表してきました。その時のランチョンセミナーのテーマが「腸内細菌:基礎と臨床の接点」でした。
腸内細菌は大腸にいて、善玉菌と悪玉菌があり、善玉菌は食物繊維を摂り人間にとって大切な物質を生み出してくれるとのことでした。私たち人間は腸内細菌と共存して、健康を維持しているんだなと感じました。
そして、バランスの取れた食事を摂ることが必要なんだと行くことを感じました。
今後もレシピの紹介を充実させていきたいと思います。
献立 1人分600kcal 食物繊維 8.0g
煮豚、茄子の冷製、たたききゅうり、中華おこわ、わかめスープ
「茄子の冷製」 1人分 40kcal 食物繊維 1.3g
材料(2人分)
・ 茄子 1本
・胡麻油 小さじ1
・ポン酢 大さじ1
・ 大葉 3枚
作り方
①茄子を縦半分にし、5ミリ幅で切る。
②皿に並べ、ごま油をまぶしラップをして1~2分チン。そのまま蒸らす
③ポン酢をかけて刻んだ大葉をのせる。
管理栄養士さんからひと言
炊飯器で煮豚とおこわを同時に調理しました。
暑い夏にガス台に立たず、炊飯器と電子レンジですべてできます。
もちろんお鍋でもできます。
「パスタランチ」のレシピを紹介します。
6月から1食分の献立のレシピを紹介してきています。
今日は、「さばのみそクリームパスタ」と「ミックスビーンズとツナのサラダ」のランチのレシピを紹介します。
鯖は焼いても、味噌煮でも美味しいですよね。私は鯖寿司が好きです。今回はその鯖を使ってのパスタです。
「パスタランチ」 1人分620kcal 食物繊維 8.6g
さばのみそクリームパスタ
材料(2人分)
・ スパゲティ 160g
・味噌味さば缶 1缶
・まいたけ 1パック
・牛乳 150ml
・塩コショウ
作り方
①スパゲティは水につけて冷蔵庫におく。(前日でも朝からでも2時間以上)
②フライパンにまいたけ、汁ごとのさば缶を炒め、牛乳と水切りした①を入れて約1分。
スパゲティの硬さを見て、塩コショウ(味噌味が足りなければ味噌)で味をととのえる。
③のりを盛る。
ミックスビーンズとツナのサラダ
材料(2人分)
・レタスミックス 1袋
・ミックスビーンズ 1袋
・ツナ 1缶
・マヨネーズ 大さじ1
・ポン酢 大さじ1
すべてを混ぜ合わせる。
スパゲティを水につけておくと時短調理ができます。サラダも混ぜるだけ!
包丁もまな板も使わずに作れます。
管理栄養士さんからひと言
★さば缶★
手軽に青魚が摂れます。EPAは血管の老化を防ぐ、血をサラサラにする、
コレステロールを下げる、中性脂肪を下げるなどの効果があるといわれています。
汁のなかにも含まれているので汁ごと使いましょう。
「豚煮と中華おこわ」のレシピを紹介します。
今回は、「豚煮と中華おこわ」のレシピを紹介します。
豚肉って美味しいですよね。しゃぶしゃぶにしても、焼き肉にしても。また豚の角煮もいいですよね。学生の頃は生姜焼き定食なんかをよく学食で食べてました。これから暑くなると野菜たっぷりの豚の冷しゃぶも、野菜と一緒にもりもり食べると美味しいです。
今日は「豚煮と中華おこわ」のレシピを紹介します。
「豚煮と中華おこわ」
1人分 500kcal 食物繊維 6.5g
中華おこわ
材料(4人分)
・米 2合
・おもち 1個(1㎝角に切る)
・冷凍中華野菜ミックス 200g
(たけのこ、人参、いんげん、きくらげ等)
・豚かたまり肉 200g
・しょうゆ 大さじ1
※炊飯器によってはできないこともあるのでご確認ください。
煮豚
材料(2人分)
・中華おこわの豚肉 1本
・もやし 1袋
・豆苗 1袋
・★しょうゆ 大さじ1
・★はちみつ 大さじ1/2
・★生姜 3枚
作り方
① 炊飯器に中華おこわの材料をすべて入れ、普通の水加減で炊飯する。
② 保存袋に煮豚用★のしょうゆ・はちみつ・生姜を入れる。
③ ご飯が炊けたら肉を取り出し、②に入れ空気を抜いておく。
④さらにもやしと豆苗を入れラップをしてレンジで2分チンする。
⑤肉をスライスして④にのせる。
煮豚を鍋で作る作り方
①肉に塩コショウし、しばらく置く。フライパンで表面を焼く。
②小さめの鍋に肉を入れひたひたの水を入れて、30分くらい箸がすっと通るまでゆでる。
③上記と同様に袋に入れ味をつける。
「パプリカのピクルス」のレシピを紹介します。
今回は「パプリカのピクルス」のレシピを紹介します。
ピクルスって少し酸っぱくて、その酸っぱさが美味しいですよね。いろんな野菜がピクルスになりますよね、時々寄せていただくお店には、大根、ニンジン、ヤングコーン、きゅうり等々いろんな野菜をピクルスにして出して下さいます。その中でも、みょうがのピクルスが結構気に入っています。ピクルスをつまみにお酒を飲む。会いますよ!
今回は、パプリカのピクルスのレシピを紹介します。
「パプリカのピクルス」
材料(作りやすい量)
1瓶 130kcal 食物繊維 4.5g
・玉ねぎ 1/2個
・赤パプリカ 1/2個
・黄パプリカ 1/2個
・塩 小さじ1/2
・砂糖 大さじ1
・ 酢 大さじ2
・粒マスタード 小さじ2(お好みで)
作り方
① みじん切りにし、塩でもんで絞る。
② 鍋に調味料を入れ、煮立ったら①を入れる。
③ 再び沸騰したら火を止めて清潔なビンに入れる。
管理栄養士さんからひと言
ちぎっただけのレタス・焼いた魚や肉の上にのせるだけで華やかになります。
タルタルソースも茹で卵とマヨネーズを混ぜるとすぐにできます。
作っておくと便利ですよ。
★塩分が気になる方に★
酸味や香辛料を上手に使うと塩分が少なくてもおいしく召し上がれます
「きゅうり2種」のレシピを紹介します。
今日は「きゅうり2種」のレシピを紹介します。
きゅうりの旬の時期は、6月から8月の夏です。
先日、母と一緒に近くの居酒屋さん行ったとき、サラダに入っていたきゅうりが、ポリポリ、パリパリ美味しく、また、ご主人が出して下さったきゅうりのお漬物がおいしく、ついついきゅうりの気分になってしまいました。そこで、明太マヨQを頼みました。明太子とマヨネーズを合わせたものを生のきゅうりにつけて食べるのですが、やっぱり旬のきゅうり。ポリポリ、パリパリ美味しかったです。
さて、今回は「たたききゅうり」と「きゅうりとハムの炒め物」のきゅうり2種のレシピを紹介します。簡単にすぐに作れるので試してみてくださいね!
「たたききゅうり」
材料(2人分)1人分 10kcal 食物繊維 0.8g
・きゅうり 1本
・ 梅昆布茶 小さじ1/2杯
作り方
① きゅうりをたたいて割り、ひと口大に切る。
② 梅昆布茶で和える。
「きゅうりとハムの炒め物」
材料(2人分)1人分 40kcal 食物繊維 0.8g
・きゅうり 1本
・ロースハム 2枚
・オリーブオイル、塩コショウ
作り方
① きゅうりを縦半分に切って斜めに切る。ハムは短冊切り。
② 塩コショウ、オリーブオイルで炒める。
管理栄養士さんからひと言
★きゅうり★
夏にたくさん出回るきゅうりはほとんどが水分で低カロリーの野菜です。
生で食べることが多いですが、炒め物のほか煮物にしてもおいしいです。
手術を受けた患者さんアンケートPart3
手術を受けた患者さんアンケートの最後の検討は、術後の患者さんの不安についての検討です。
[5]術後の患者の不安について。
最後に術後の患者の不安についてのアンケートの結果を紹介します。回答は、「出血と痛み。」などと複数回答もありますが、やはり術後の一番の不安は「術後の出血」で28.1%でした。次が「痛み」で26.7%、次いで「排便がうまくでるか」が19.4%でした。「不安がない」という人も16.0%あり、これらで全体の90.2%でした。残りの9.8%は、「術後再発しないか?」、「術後どの程度でよくなるのか」、「術後どの程度入院が必要なのか」、「術後経過よく治っていくか」、「肛門が正常に機能するか」など、術後の傷が順調に治っていくかどうかを心配する人が多かったようです。
術後の痛みについては、今まで述べてきた痛みに関するアンケートの結果を示してあげればいいと思いますが、術後の出血に関しては、完全に創が治ってしまえば別ですが、「何月何日以降は、出血しません。」と断言できないところがつらいところです。また、出血に対しては医者側の心配する出血と、患者さんの心配する出血とは多少異なっています。
医者にとっては、出血に対して止血術をおこなったり何らかの外科的処置をしなくてはならない早期出血や、晩期出血に神経をつかいます。
一方患者さんにとっては、早期出血や、晩期出血も心配なことですが(術前にこれらの出血について説明することも要因と思いますが)、創部にあててある綿花についている出血や、排便の際の出血が心配だったり、これらがいつまで続くのかに気をまわしたりします。
当然といえば当然ですが、医者が特に心配していない出血が患者さんにとってはとても重大なことになります。
アンケートの中には、「どの程度の出血が心配でなくほっておいていいのか、どのくらい出血したら困った出血なのかわからない。」と答えたものもありました。
当院では、出血についての説明を次のようにしています。当院での術後の早期出血はほとんどが術後3時間以内におきています。そこで患者には術直後に「術後1時間目と3時間目に術後の傷を見ます。うちでは術後早期の出血は3時間以内にほとんどがおきています。3時間目に出血していなければ、今日は困った出血はおきません。」とまず説明します。
術後3時間目に診察したときには、「困った出血はありません。ただ傷はあるので、あててある綿花に血がついていたり、排便のときにポタポタ落ちる程度の出血がありますが、これは心配ありません。便がしたくなったら迷わずしっかり出して下さい。」と説明しています。
術後1日目に手術についてや、今後の傷の治りについてのだいたいの予定を説明しますが、晩期出血については、「術後7〜10日目ごろにおきる出血のことを晩期出血といいます。これは、内痔核の根元を縛った糸がはずれるころに、糸がはずれたということだけが原因でなく、周囲の壊死組織が炎症をおこしたりすることなどでおきる出血のことです。」と説明します。
また出血のしかたについても、「7〜10日間のあいだに傷がある程度治っているので、傷口から流れ出てくるような出血はありません。内痔核の根元を縛ったところからの出血なので、直腸のなかにだんだん血がたまり、便意を感じます。排便してみると血の塊がゼリー状にでてきます。これが頻回におき、下痢のようになります。」
いつのまにか出血するということはなく、下痢のように出血するので、患者さん本人が必ずわかるということも教えてあげる必要があると思います。ただ手術をした人皆が出血するのではないので、「内痔核の手術をしている病院の全国の平均で約0.5%の人にこういう出血がおきます。」と説明しています。
この説明だけで十分かどうかはわかりませんが、参考にして下さい。このように、出血一つをとっても必ず医者と患者とのギャップはあります。このギャップを理解して、これをうめるように医者は努力していかなければならないと思います。
最後に前にも述べましたが、最近Day Surgery (日帰り手術)が注目されています。ただこれをおこなうにあたって、誰のためのDay Surgery なのかをしっかり考えなければなりません。医者側の立場だけでおこなって、手術はしたものの毎日救急車で通院しているなど困ったことになりかねません。本当に外来手術でできるのか?術後の処置が患者さん本人でできるのか?術後の不安が十分とれているか?など患者側の立場で考えていかなければなりません。これが私たち医者が忘れてはならないことだと強く感じます。私の感じていことがわかっていただければと思います。
手術を受けた患者さんアンケートPart2
今回は、手術中の痛みと手術後の痛みの関係や、麻酔の際の痛みと手術後の痛みについて患者さんのアンケートを基に検討しました。
[4]術中の痛みと術後の痛みの関係
術中の痛みが楽な人ほど術後の痛みが少ない印象があったので、実際にアンケートではどうかをみてみました。自分が思っていた痛みを100%ととして、実際感じた痛みを表した結果は次のようです。
術中の痛み 術後の痛み 麻酔の痛み
10%以下(106例)27.3% 33.9%
11〜20%(40例) 38.8% 34.3%
21〜30%(62例) 46.1% 47.5%
31〜40%(9例) 32.8% 52.2%
41〜50%(45例) 54.1% 57.0%
51〜60%(9例) 61.1% 66.7%
61〜70%(8例) 62.5% 63.8%
71〜80%(9例) 52.9% 78.7%
81〜90%(5例) 88.0% 92.0%
91〜100%(6例) 61.7% 76.7%
100%以上(1例) 120% 60%
術中の痛みが強くなるにしたがって術後の痛みは強い傾向にあります。また、麻酔の痛みも同様にだんだん痛くなるようです。ただ術中の痛みも自分の思っていた痛みと比較して、50%以下だと答えた人が全体の87%を占めていますし、術中の痛みが50%以下の人の術後の痛みは、平均39.8%でした。
術中の痛みを50%以下の人に限定して、麻酔の痛みと術後の痛みについてさらにみてみるとつぎのようになります。
術中の痛み 麻酔の痛み 術後の痛み
50%以下 10〜19%(31例) 22.9%
50%以下 20〜29%(36例) 27.2%
50%以下 30〜39%(60例) 37.2%
50%以下 40〜49%(10例) 41.0%
50%以下 50〜59%(51例) 43.5%
50%以下 60〜69%(16例) 55.6%
50%以下 70〜79% (20例) 52.3%
50%以下 80〜89% (7例) 50.0%
50%以下 90以上 (22例) 51.8%
麻酔の痛みが自分の思っていた50%以下の人では、痛みが軽い人の方が、術後の痛みがも軽度ですが、麻酔の痛みが50%以上になると、麻酔の痛みにかかわらず術後の痛みはほぼ一定になっています。したがって、麻酔の痛みが強くても術後の痛みとすぐに結びつくものではないと考えていいのではないかと思います。
以上のことから、術中の痛みと術後の痛みは関連があり、麻酔の痛みと術後の痛みとはすぐに結びつかないことを考えると、麻酔の時の痛みに弱いから、痛がりだからといってそれが術後の痛みに関係してくるのではなく、術中の操作など余計な痛み感じさせずに手術をすることが術後の疼痛を和らげる一つの方法と考えます。また麻酔の痛みに関しては、術後出血をきたして、再度麻酔をして止血する際、最初の痔核根治術を施行したときより同じことをしているのですが麻酔の痛みが強く感じることがあります。これは最初の手術はある程度覚悟をして麻酔・手術を受けているのに対して、止血術は突然で、予期していなかったことです。これだけのことでも痛みの感じ方がちがってくるものだと思っています。このことからも、手術をうける患者さんに十分説明し、納得してもらえれば手術に対する不安が取り除け、術前からある程度、術後の疼痛をとってあげれるといっても言い過ぎではないと思います。
手術を受けた患者さんアンケートの検討Part1
渡邉医院では、手術を受けられて入院された患者さんにアンケートをとっています。ほとんどの患者さんがこのアンケートに答えてくださっています。
患者さんの生の実際に感じた声を聞くことができ、とても参考になります。渡邉医院をよりよくするために、このアンケートの患者さんの声は大切だと感じています。
以前、このアンケートの結果をまとめ、検討したものがあります。今回はこのアンケートの検討について3回に分けて紹介します。
このアンケートをまとめたものは、「渡邉肛門科標準術式」という本を出すときに検討した内容です。この本も、当初は、自分のやっていることを、後輩に残せればいいなという思いで企画したものでした。
ではアンケートの検討についてご紹介します。
「アンケートの検討」
術前・術中・術後の管理など医者側からの考えをまとめたものは多くみられますが、患者側の立場で書いてあるものは少ないと思います。たとえば、出血ということについては、医者の立場では早期出血や晩期出血など、止血術を行わなければならなかったり、止血術を行わないまでも厳重に観察していかなければならない出血が問題となります。またこういう出血が医者を悩ませストレスを感じることです。
患者側に立つと、このような出血も問題にはなりますが、排便時にポタポタと落ちる程度の出血や、創部にあててある綿花に付く出血がとても気になり、排便時の出血の有無に一喜一憂し、これが患者側のストレスになります。
このように出血ということだけでも医者の考えていることと患者さんの考えていることでは大きな違いがあります。したがって治療する立場の医者としては、患者さんがどのようなことに不安をもっているのかは十分理解する必要があると思います。
最近 Day Surgery (日帰り手術)が注目され、今後さらに適応が広がっていくと思いますが、これも医者側の思惑だけの Day Surgery では成り立たず、患者さん不在の治療になってしまいます。やはり術前から十分に手術の内容や方法を患者に説明するだけでなく、麻酔の際や、術中、術後の痛みがどの程度のものなのか、術後何かトラブルが起きた際にどのように対処したらいいのかなど、より具体的に説明して、患者さんの不安を取り除いてあげる必要があると思います。
当院を受診される患者も、周りの人から「痔の手術はすごく痛いよ。手術の後はウンウンうなっているよ。」などと、おどかされて来る人もいれば、そうでなくても「肛門疾患の手術=とても痛い!」とゆう方程式を即座に頭に思い浮かべる人が多いと思います。実際に、手術をするのに迷った人の63%が手術中、手術後の痛みが不安であり、迷う原因だったとアンケートに答えています。実際の患者さんの声をとどけ、十分に患者さんの不安を取り除いてあげるのに次のアンケートの結果が役に立てばと思います。
アンケートは手術を施行した420名の入院患者におこないました。回収率は100%でした。アンケートの内容は、麻酔の痛み、手術中の痛み、それと手術後の痛みについてそれぞれ1)思っていたほど痛くなかった。2)思っていたとおり痛かった。3)思っていた以上に痛かった。の三つに分けて簡単に回答してもらいました。また回答できる人には、痛みについて自分が思っていた痛みを100%として実際に感じた痛みを%でも表してもらいました。全ての項目について%で評価してくださったのは300名で、全体の71%でした。
[1]麻酔の痛みについて。
当院では麻酔は全て局所麻酔です。このため肛門の周囲に何回か注射針を刺さなければならないため、どうしても痛いのですが、結果は、
「1)思っていたほど痛くなかった。」が80.1%、「2)思っていたとおり痛かった。」が14.5%、「思っていた以上に痛かった。」が5.4%でした。また%で表してもらった平均の麻酔の痛みは48.9%でした。
局所麻酔ということで、術前そうとう麻酔は痛いと覚悟されてきたのか、実際に局所麻酔をうけてみると、自分の思っていた痛みの半分以下で、想像していたほどではなかったと言うことでしょう。「最初の数回は痛みを感じたが、途中から痛みは感じなくなった。」という回答が多かったです。肛門の周囲を何周も麻酔するため、表面の1週と、括約筋への最初の1週の痛みを我慢してもらえば、後は麻酔をした部分にさらに麻酔をしていくので、途中から痛みを感じなくなるのは当然ですが、このことを十分患者に説明しておくと、局所麻酔の恐怖を取り除いてあげられますし、あとどのくらい頑張ればいいのかのの目安にもなると思います。
[2]手術中の痛みについて。
手術中の痛みについては、「1)思っていたほど痛くなかった。」が93.1%、「2)思っていたとおり痛かった。」が4.1%、「3)思っていた以上にいたかった。」が2.6%でした。また%で表してもらった平均の術中の痛みは31.5%で、想像していた痛みの3割程度の痛みだったとの結果でした。痛みを感じたときで一番多いのが、痔核根治術の場合は、根部を結紮するときに痛みを感じることが多いようです。
これは内痔核が十分に剥離できてなく、つっぱりが残った状態で根部結紮をし、粘膜と静脈瘤だけを結紮するのではなく、一部筋組織を含めて結紮をしてしまったときにでる痛みだと考えています。また根部まで十分麻酔薬が浸潤していないこともあると思います。これは局所麻酔を追加したり、術中の操作で十分取り除くことができる痛みですし、これがまた術後の疼痛ともかかわってくると考えています。根部を結紮するときの痛みは、局所麻酔だからこそわかる痛みで、腰椎麻酔や仙骨硬膜外麻酔の際は、同じような操作をして、知らず知らずのうちに、術後の疼痛の原因をつくっていることもあると思います。この点については私たち医者側が十分気をつける必要があります。また痛みを感じたと回答した人のなかには、術中引っ張られたような感じがしたとか、手術中肛門鏡を挿入して、肛門を広げることがありますが、この時の違和感が強いとか、便が出そうになる感覚がつらかった、と答える人もいました。術中の痛みと術後の痛みの関係については後で述べますが、局所麻酔後に痛みなく十分肛門が広がる人や、術中の痛みが少ないほど術後の痛みが軽い傾向にあります。術中の痛みはできる限り少なくなるように心掛ける必要があると思います。
[3]手術後の痛みについて。
手術後の痛みについては、「1)思っていたほど痛くなかった。」が82.4%、「2)思っていたとうり痛かった。」が12.0%、「3)思っていた以上に痛かった。」が5.1%でした。また%で表してもらった平均の術後の痛みは44.3%で、想像していた痛みの半分以下だったとの結果です。想像していた痛みが20%以下だった人が全体の50%を占めていました。たいていの人が、「この程度の痛みだったらもっと早く手術をしたほうがよかった。」と答える人が多かったです。手術をするのを迷った人の63%が手術中、手術後の痛みがその理由になっていることを考えると、術後の痛みについて十分説明してあげる必要があります。
術当日の肛門痛は、あったとしても術直後と術後3時間目の消炎鎮痛剤の座薬の投与に加え、後は内服の消炎鎮痛剤でおさえることができます。術後1日目からは、排便時以外の普段の痛みは軽いのですが、排便時及び排便後の痛みがあります。次に排便時の痛みの消失期間について示します。これについては351人(84%)の方が回答しています。消失期間はつぎの様な割合です。
消失期間(日) (人) (%) 合計%
0 1 0.3 0.3
1 37 10.5 10.8
2 53 15.1 25.9
3 39 11.1 37.0
4 33 9.4 46.4
5 44 12.5 58.9
6 35 10.0 68.9
7 44 12.5 81.4
8 31 8.8 90.2
9 11 3.2 93.4
10 19 5.4 98.8
11 1 0.3 99.1
12 1 0.3 99.4
13 1 0.3 99.7
14 1 0.3 100
排便時の痛みが消失する平均期間は、4.9日でした。順調にいくと、術後7日目から10日目の間で全体の99%の人が、排便時の痛みが消失又はすごく楽になってくるようです。
痛みのとれかたもだんだん楽になるというよりは、この時期に急に痛みがとれ楽になるようです。
たまに冗談で、「本当に痛みが取れるのだろうか?先生は嘘をついているんじゃないか?と疑い始めたころに痛みは取れますよ。」(お互いに笑い)などといったりしています。術後の創もこの時期になるとおちついてきます。排便の際の痛みもこれにほぼ一致しています。患者の中には、完全に傷が治るまで排便時の痛みが続くものだと思っている人が多いようです。「傷が完全に治らなくても痛みはとれてきます、それも7〜10日間の間です。」と説明するといいと思います。
ただいつまでたっても排便時の痛みがとれないときは、特にドレナージの傷が完全に治っているにもかかわらず、排便時及び排便後の痛みが続く時は、肛門上皮の部分の傷が裂肛様に取り残されていることが多いです。このような場合は、いつまでもだらだら外用薬を投与していると、慢性の裂肛のようになって患者さんにとっては苦痛が長引くだけです。なかなか患者さんには言いにくいことかもしれませんが、ドレナージ創をもう一度作り直すなり、なにか外科的な処置をしてあげたほうが患者さんにとっては早く治りいいと思いますし、是非そうして欲しいです。
側方内肛門括約筋切開術施行前後の最大肛門静止圧の経時的変化について(日本大腸肛門病学会雑誌 第58巻 第3号 2005)
今回は、「側方皮下内肛門括約筋切開術施行前後の最大肛門静止圧の経時的変化について」の論文を紹介します。
裂肛は便秘や下痢などで排便時に肛門に傷がつく病気です。初期の場合は、排便の状態を良くして原因を取り除くことで裂肛は軽快していきます。
転んだ時の怪我と一緒で、排便の状態が良ければ治っていきます。でも切れたり治ったりを繰り返すことでだんだん慢性の裂肛になっていきます。この慢性化していく原因は、排便時の痛みを繰り返すことで、内肛門括約筋の緊張が強くなっていくことで、内肛門括約筋の緊張をとり、正常にすることで裂肛は治っていきます。裂肛を外科的に治す手術方法の一つが、側方皮下内肛門括約筋切開術です。
字が示すとおりに、肛門の横に約5mm程度(メスが挿入できる程度の傷)の皮膚切開を入れ、そこからメスを挿入して、緊張の強くなった筋肉を切開して、正常の緊張に戻す手術です。この側方皮下内肛門括約筋切開術を施行することで、内肛門括約筋の緊張の程度がどう変化していくかを、内肛門括約筋の緊張の程度を反映する最大肛門静止圧を測定し検討した論文です。
「側方皮下内肛門括約筋切開術施行前後の最大肛門静止圧の経時的変化について」
日本大腸肛門病学会雑誌 第58巻 第3号 164-168 2005
抄録
裂肛に対して術前の最大肛門静止圧(以下MARP)の違いで、側方皮下内肛門括約筋切開術(以下LSIS)がどのようにMARPの低下に影響を与えるか検討した。対象:対象は、H10年9月〜H15年3月までにLSISを施行した154例(男性50例、女性104例、平均年令41.8才)。方法:術前、局所麻酔後、LSIS施行直後、治癒時にMARPを測定。術前のMARPでA群(100mmHg未満)、B群(100-150mmHg未満)、C群(150-200mmHg未満)、D群(200mmHg以上)の4群に分類。局所麻酔後、LSIS施行直後、治癒時の低下度について比較検討した。結果:局所麻酔後の低下度はA群で有意に小さく、LSIS施行直後の低下度は各群間に有意差は認めなかった。治癒時の低下度は、術前のMARPが高いほど有意に大きかった。まとめ:術前のMARPが高いほど治癒時の圧が有意に低下し、また、MARPの術前、術中の経時的変化をみることが、LSISを施行する際に重要であると考える。
論文
はじめに
裂肛は、肛門疾患の中で頻度が多く肛門の3大疾患の一つとされている。1)裂肛の治療は、とくに急性期においては排便のコントロールなどの原因の除去や外用薬などによる保存的療法である。しかし、保存的療法でも効果が得られないものや、再発をくりかえすもの、また疼痛が原因で内肛門括約筋の緊張が強くなったり、内肛門括約筋の炎症によって線維化が生じ、肛門管の進展性が失われて器質的な肛門狭窄をきたしたものに対しては外科的処置が行われている。1)治療のポイントは、内肛門括約筋のspasmの除去と、線維化によって失われた肛門管の進展性を取り戻し、排便をスムーズにすることにあるとされている。2)
裂肛の外科的治療の第一選択として現在、側方皮下内肛門括約筋切開術(以下LSISとする)が主におこなわれている。1)LSISは、内肛門括約筋の緊張をとり、最大肛門静止圧(以下MARPとする)を下げることを目的としている。裂肛の治療方針を立て、LSISの適応を決めるのに肛門内圧測定が有用であり、内圧の高い症例においてLSISが有効であるとの報告がある。3)われわれは、MARPの測定はLSISの適応を決めるだけでなく、MARPの術前、術中の経時的変化をみていくこともLSISを施行する際の括約筋の切開の程度を判断する一つの方法になるのではないかと考えた。そこで、術前のMARPの値の違いによって、局所麻酔後やLSIS施行直後、さらに治癒時のMARPが経時的にどのように変化していくか測定し、局所麻酔やLSISがMARPに及ぼす影響について検討した。
対象
対象は、平成10年9月から平成15年までに保存的療法で軽快しなかったり、肛門ポリープなどを合併した慢性裂肛に対してLSISを施行し、1)術前(LSIS施行前)、2)局所麻酔後、3)LSIS施行直後、4)治癒時のそれぞれのMARPを測定した154例、男性50例、女性104例、平均年令41.8才とした。裂肛の箇所は、1箇所が109例、2箇所が36例、3箇所が9例であった。また、裂肛の部位は大きく前後左右の4方向で分けると、1箇所裂肛では前方24例、後方84例、右側1例であった。2箇所裂肛では、前・後方30例、後・後方4例、右側・後方2例であった。3箇所裂肛では、前・後・右側が7例、前・後・後方が1例、左・右・後方が1例であった。
なお、現在のところ全例治癒しており、再手術を要した症例は認めなかった。LSIS施行直後とは、術中にLSISを施行した直後であり、治癒時は、排便時の出血や疼痛がなく、自覚症状がなくなった時点とした。
最大肛門静止圧の正常値は各施設によって多少異なるが、正常値の上限が100mmHg以下が多く、4~6)当院でも100mmHgを正常の上限としている。
方法
術前(LSIS施行前)、局所麻酔後、LSIS施行直後、治癒時のMARPを測定。術前のMARPから154例を、A群(100mmHg未満)、B群(100mmHg以上150mmHg未満)、C群(150 mmHg以上200mmHg未満)、D群(200mmHg以上)の4群に分類した。次に、術前のMARPと比較して、局所麻酔をすることで術前のMARPの何%になったかを局所麻酔後の低下度として、局所麻酔後の低下度:局所麻酔後MARP/術前MARP×100と定義した。同様に、LSIS施行直後の低下度:LSIS施行直後MARP/局所麻酔後MARP×100、治癒時の低下度:治癒時MARP/術前MARP×100とそれぞれを定義して、A、B、C、D群間で比較検討した。
肛門内圧検査にはコニスバーグ社のカテーテル型圧力トランスデューサー(Model No.P31)を用い、被験者を左側臥位にしてトランスデューサーを挿入し、引き抜きで内圧を測定した。
手術の際の体位も左側臥位で行い、全例局所麻酔下で手術を施行した。局所麻酔薬は1%塩酸プロカインを用いて、まず肛門縁にそって皮下に全周にわたり浸潤麻酔を行い、次に内肛門括約筋に対して6時の方向から1mlづつ全周に局所麻酔を施行し、計20 ~30 ml局注する。局所麻酔後に全例にストレッチングを施行した。方法は、用指で前後左右にストレッチングを施行し、さらにアイゼンハンマー氏型肛門鏡を挿入して、3~4回ストレッチングを行う。またアイゼンハンマー氏型肛門鏡が挿入出来ない程度の狭窄がある場合には、用指のみのストレッチングとした。LSISはNotaras法で行った。肛門鏡を内肛門括約筋が索状に触れられるまで拡張し、肛門の3時の方向からNo10の円刃メスを内肛門括約筋に平行にして肛門上皮下に歯状線の手前まで挿入する。メスの刃を外側に向けて内肛門括約筋を切開する。切開の深さは、示指で切開部を圧迫して段差が感じられるまで切開した。LSIS施行後、二横指が柔らかく肛門内に挿入出来る程度に緊張をとった。術者およびMARPの測定者は、全例同一術者、測定者である。
統計学的な検討は、A、B、C、D群の4群間における分散分析を行ったうえで、各2群間の比較にはポストホック・テストで行い、p<0.05をもって有意差ありとした。
結果
A群24例、B群70例、C群41例、D群19例であった。治癒までの期間は、A群22.8±6.0日、B群25.3±8.9日、C群23.8±9.7日、D群25.3±8.1日で、各群間に有意差は認めなかった。
1)4群のそれぞれのMARP
局所麻酔後のMARPは術前のMARPが高いほど高く、D群では41.1±29.5mmHgとC群以外で有意にMARPが高かった。LSIS施行直後のMARPはB群とD群との間のみで有意差を認めた。(p=0.0073)治癒時のMARPはA群が他の群と比較して有意に低かった。
2)局所麻酔後の低下度
A群33.8±18.1%、B群22.7±12.8%、C群22.0±11.5%、D群17.9±12.6%であった。A群と比較してB群、C群、D群でそれぞれ有意に低下度が大きかった。(p=0.0006、p=0.0009、p=0.0002)
3)LSIS施行直後の低下度
A群62.0±31.3%、B群58.2±33.2%、C群53.2±25.2%、D群69.6±36.1%であり、それぞれの群の間で有意差は認めなかった。
4)治癒時の低下度
A群106.2±34.9%、B群81.9±25.8%、C群64.5±21.3%、D群52.9±21.6%であった。A群B群間、B群C群間、B群D群間でそれぞれ有意差を認め、(p=0.0001、p=0.0008、p<0.0001)C群D群間のみ有意差を認めなかった。
考察
裂肛に対する外科的治療の第一選択として現在、主に行われているのはLSISである。1)LSISを施行する際の要となるのが括約筋の切開の程度である。全長にわたる切開は避けるべきで内括約筋下端1/3〜1/2を目的とする1)との意見もある。しかしながら、どの程度までの内括約筋切開を行うべきかやMARPとの詳細な関連性については確立されていない。今回はNotaras法で同程度の切開を行った上で、MARPの詳細、つまり術前、局所麻酔後、LSIS施行直後および治癒時のMARPを測定しLSISとMARPの変化について検討した。
今回の結果では、術前のMARPが高い群で治癒時の圧の低下が有意に大きかった。これに対して、LSIS施行直後のMARPの低下については、各群間に有意差は認めなかった。術前のMARPが高い症例では、疼痛によって内肛門括約筋のspasmが生じ、内肛門括約筋の緊張が亢進した状態に加え、内肛門括約筋の炎症によって線維化が生じ、肛門管の進展性が失われ器質的な狭窄をきたした状態であると考える。これに対して術前のMARPが低い症例では、内肛門括約筋の緊張は亢進した状態であるものの、まだ内肛門括約筋の線維化がすすんでなく、器質的な狭窄がおきていない、まだ柔らかい状態であるのではないかと推察する。このことは、組織学的に、裂肛の初期の段階では表皮の脱落、潰瘍底の出血、間質の強い浮腫、好中球を中心とする炎症性細胞浸潤、小静脈の鬱血、血栓形成などの亜急性潰瘍の所見であるのに対して、慢性化してくると、周囲の静脈叢内の鬱血、血栓形成、間質内の円形細胞浸潤、さらに線維性の増殖、皮下組織の肥厚、瘢痕形成の像が著明になってくる7)ことに一致していると思われる。また、肛門管の静止圧には、肛門括約筋のうち内肛門括約筋が80%の影響を与えているとされている。3)LSISを施行する際に局所麻酔を施行した後も局所麻酔後のMARPは術前のMARPが高い群で高値であった。このことは、最大肛門静止圧の圧の高さには内肛門括約筋の緊張以外にも内圧に影響を与える因子があるのではないかと考える。線維化や瘢痕形成などもその要因になるか今後検討が必要だと考えるが、裂肛の治療には内肛門括約筋の緊張以外の要因も取り除く必要があると考える。したがって、術前のMARPが高い症例ではLSISで内肛門括約筋の緊張の亢進した状態をとりのぞき、線維化をおこし器質化した内肛門括約筋を切開することもMARPを下げることに強く影響を与えたと考える。LSIS施行直後のMARPの低下度に各群間に有意差を認めなかったのは、LSISを施行することで、内肛門括約筋の緊張が亢進した状態をとりのぞいたことだけがMARPに反映されたのではないかと推察する。以上より、MARPの術前、術中の経時的変化をみていくこともLSISを施行する際の括約筋の切開の程度を判断する一つの方法となると考える。
今回の検討では、LSISを施行した全例が治癒しており、再手術を要した症例は今のところ認めていない。また治癒までの期間についても4群間に有意差を認めなかった。しかしながら、D群では治癒時のMARPが120.9±46.8mmHgと当院で正常の上限としている100mmHg以上である。このことから、治癒時のMARPを正常の上限としている100mmHg以下にしなければ再発の可能性が大きくなるのか、また正常値の上限以下にしなくても治癒していくのならば、術前のMARPの何%までMARPを下げれば治癒するのか、今後各群間での再発の有無、またその再発の頻度に差がでてこないかフォローアップしながら、さらに検討していく必要があると考える。
文献
1)岩垂純一:裂肛の病態と、その治療:最近の知見を中心に. 日本大腸肛門病会誌 50:1089-1095, 1997
2)住江正治, 石田 裕, 坂田寛人ほか:裂肛の手術療法. 日本大腸肛門病会誌 30: 410-414, 1977
3)長谷川信吾:裂肛治療に対する肛門内圧測定の意義–側方皮下内括約筋切開術の適応について-. 日本大腸肛門病会誌 46:48-53, 1993
4)河 一京:直腸肛門内圧同調 Videodefecography による排便障害の検討ー Rectoceleを中心に.日本大腸肛門病会誌 48:289ー300,1995
5)Jen-Kou Lin:Anal Manometric Studies in Hemorrhoids and Anal Fissures.Dis Colon Rectum 32 :839-842,1989
6)M.Pescatori,G.Maria,G.Anastasio,et al:Anal Manometry Improves the Outocome of Surgery For Fistula-in-Ano.Dis Colon Rectum 32:588-592, 1989
7)荒川廣太郎:裂肛の成因と病理.日本大腸肛門病会誌 30:391-395, 1977